今日も投資の勉強はお休み。
前回の「政財界の黒いメシ」はいかがでしたか?
今回は記者の健康問題について書きます。笑えるような泣ける実話です。
記者は万年寝不足
取材、執筆、夜討ち、それから社に戻って朝刊最終版をチェックします。
その日のすべての仕事を終えて帰宅するのは午前2時すぎ、なんてこともしばしば。そこから近所の飲み屋に一杯ひっかけに行く、なんてツワモノもいましたね。
寝床に戻っても眠れずにいると、朝刊が届き出します。
今のようにネット配信などない時代は、他社の新聞は全部取るのが当たり前でした(全国紙5紙と東京新聞)。
抜かれていないかどうか全部チェックして、やっと安心して眠りにつき、4~5時間眠れればもうけもの。
反対に特ダネや何か重要なニュースを他紙に抜かれていたりすると、もうゆっくりなんか寝ちゃいられません。
デスクやキャップの電話で早朝から叩き起こされてひとしきり愚痴と説教をきかされ、そこから事実関係の裏を取るために朝駆けやら電話取材やらに追われることがわかっているからですね。
朝っぱらから電話をかけまくり、場合によっては朝駆けもして、事実確認が取れたら、夕刊の締め切りまでに記事を書いて出稿します。
こういうのを「後追い」とか「追っかけ」と言います。面倒だし悔しいしで、徒労感しか残りません。
果てしなきスクープ合戦
逆に、特ダネをスクープして他社がトタ(「その日すぐ」の意。もう死語かも)で追っかけてくれるとこちらはしてやったりです。
大きなニュースの場合、第一報をスクープできるか抜かれるかで、その後の取材競争に大きな差がつきます。
スクープした記者は他社の記者が寝ている間に続報をどんどん考えて取材を積み上げし、独唱状態に。一方、出し抜かれた他社の記者たちはそれをひたすら追いかけることになるからです。
もっとも、書かれた当事者が「今朝の一部報道にありました件はまだ何も決まっていません」とわざわざ発表してくれることもあり、書いた本人は「しまった、勇み足だったか!」と肝を冷やすことになります。
記者クラブでは、他紙の記者に「なんだガセだったのかよ!」みたいな白い目で見られ、、、ているようなみじめな気持ちになります。
たとえば企業の合併話など、交渉の最中にメディアに漏れたりすると、当事者が気を悪くして「この話はなかったことに」とひっくり返ることもあります。
あるいは、決定をひっくり返したい内部の人がわざとメディアにリークするなんてこともあるやに聞きます。
リークとは。機密情報が内部関係者から外部に漏らされること。政治家や経営幹部から記者にもたらされる場合や、匿名掲示板に内部の人が書き込んだりといったケースがあります。英語のleak(漏れ)から。
記者はこうした当事者同士のあつれきや役員同士の力関係などいろんなことを考え抜いた上で、もうひっくり返る心配がないという確信を得た段階でスクープを記事化します。
でも、たまにその日のネタに困って見切り発車で書いてしまう場合もあります。こういうのを飛ばし記事と言います。あまりほめられたことではありませんが。。。
記事の終わりのほうに「別の方向性を探る可能性もある」「まだ流動的」なんて書かれていたら、記者にも自信がないってことなので「飛ばし」である可能性が高いです。
リークがもとで特ダネスクープということもけっこうあります。だから、日ごろから関係者に顔を覚えておいてもらうということも大事でしたね。
ちなみに、こうしたリーク情報は今から考えると特大のインサイダー情報でした。
もちろん記者がその情報をもとに金儲けをすることはない、ということはあいさつ記事で書いたとおりですが、、、。
γGTPの高さを競う猛者たち
多忙な毎日を送る記者は、食生活もひどいもんです。
昼間は車中でコンビニ弁当かおにぎり、締め切りに追われて夕飯を食べるひまもなく、全部終わってから夜中にビールとラーメン、みたいな。
もうこうなると食事ではなく「エサ」ですね。
にゃんやねん
そんな生活が数年も続くと、だいたい数値に現れてきます。健康診断がだんだん恐くなる。
結果が返ってくると、みんなで γ-GTP(ガンマジーティーピー)の数値の高さを競いあってました(笑)。
腎臓の多く含まれるたんぱく質を分解する酵素のこと。アルコール過多で肝細胞に異常が生じると数値が高くなる。一般に50以上だと要注意、100以上だと医療機関での受診が必要なレベルといわれる。
「生きて活動しているのが奇跡」みたいな数値の記者も中にはいました(笑)。
γGTPが異常値の人に限らず、記者は早死にみたいです。健康保険組合の便りか何かに「記者は一般の人より短命」みたいな統計が出ていたのを見た記憶があります。
その昔、僕が煙草を吸っていたころ、健康診断後の問診で医者から「記者さんは食道ガン、胃ガン、肺がんの罹患率が普通の人の数倍あるんですよー」と軽く脅されたことがありました。
そういえば新人のころ、大酒のみでヘビースモーカーの猛獣みたいなおっさんデスクが、僕にこんなことを言い放ったことがあります。
要するに、ウイルスやら細菌やら癌細胞やらが体内で見つかるまでは病気ではない、ゆえに病院に行かなければ病気になる(病気であることが確定する)ことはない!という無茶苦茶な三段論法です。
なんちゅうアホなおっさんやと当時は思ったもんですが、この言葉の裏には「記事は事実の裏付けがあってこそ」「ガセに踊らされず真実のみを追究したまへ」という記者魂を後輩に教えたかったのか、、、。
ゲンコーよりケンコーが大事
僕の20年間の記者時代に、直属の上司や先輩が4人、ガンで亡くなりました。2人は定年退職後間もなく。もう2人はまだ現役のとき。今思えばみんな酒豪でしたね。
その中の1人、仕事の鬼と呼ばれた先輩を入院中にお見舞いに行ったことがありました。ガンとは聞かされていたけれど、まさか末期とは知らず、すっかりやせ細った姿を見て愕然としました。
よく怒鳴られ、「いつかこいつボコボコにしてやる」と心の中で呪っていた鬼先輩が仏のように優しくなり、照れ笑いしながら
「ゲンコーよりケンコーだぞ、ベン」
なんて、逆にこちらの健康を気遣ってくれたりして。病院の帰り道、不覚にも悔し涙が止まらなくなったのを覚えています。
「原稿より健康」。「いくらいい原稿を書きたいと思っても、健康を害して結局新聞に載せられないのでは本末転倒だ」と、上司が部下に先輩づらしたいときに使う常套句。単なるお題目にすぎないけど、語呂がいいので覚えやすく、記者なら一度は聴いたことがあるはず。火山の噴火や津波、震災被災地、紛争地域など危険を伴う現場に向かう記者などにも使われる。
かくいう私も、過去に数回、体を壊したことがありました。
最初は20代後半のとき。寒い冬の朝、出かける支度を終えて玄関までたどり着いたものの、そこでばったり倒れ、そのまま数時間意識を失いました。で、寒さで目が覚め、自力で電話して救急車を呼びました。
少し風邪ぎみだったところに、連日の睡眠不足がたたったようで、要するに過労でした。
もしかしたら入院かも!
こんな女性が担当医で
なんて少し期待したんですが、栄養剤を点滴されてその日のうちに帰されました(涙)。
「倒れたんじゃなくて寝てただけなんじゃねーか?」などと先輩にからかわれましたが、目覚めなかったらそのまま死んでいたかもと思うとぞっとします。
ちなみに、過労死しそうなほど毎日が忙しい記者には「なんでもいいから入院したい」という願望が少なからずあります。仕事のことを考えずに大手(おおで)を振って(?)休めるからです。
「足の骨折みたいなのが最高だよな」なんて同僚と話してましたね。
病気や骨折で入院されている方には大変失礼な話とは思いますが、半ば冗談、半ば本気でした。ブラックな仕事です。
原因不明の病気でお先まっ白
30代後半に、冗談ではない原因不明の病気になりました。あれは怖かった。
このときも風邪が長引いて無理して働いているときでした。
ある日突然、新聞やパソコンを開いて活字を読もうとすると目の前が真っ白になって、ものすごい吐き気に襲われたのです。
お先まっ白。
そのころ僕は西の方の支局にいて、わりと責任ある立場になっていたので、日々の紙面構成を考えたり、後輩たちを叱咤激励しつつ自分も一線で取材しなくちゃならないような立場にありました。
でもその症状が出てからというもの、会社に来ても何もできないんです。
取材しにいくふりをして公園で休んだりもしましたが、症状は一向に改善しません。吐き気が止まらないので、だんだん会社のトイレの個室にこもりっぱなしになり。。。
それでも、どうせすぐ治るだろうと思って、吐き気が収まれば我慢して職場に戻ります。でも、顔面は蒼白、脂汗たらたら。すぐまたトイレに駆け込むの繰り返し。
つらい、、、
見かねた支局長が「休んで病院行け」というので、やっと重い腰を上げて病院に行くことにしました。
最初は内科に。そこで「メニエール病の可能性もある」と言われ、次は耳鼻科へ。
今度は「脳も検査したほうがいい」となって、脳外科に行ってCTスキャンも撮りました。1泊入院で睡眠時無呼吸症の検査もしましたっけ。
いろいろな病院をたらい回しにされ、たくさん検査しましたが、特に問題は見つからず。でも症状は1週間以上も続きました。
結局は「1ヶ月休んでよし」と支局長から言い渡されました。
そのときは、「もうこの症状が治らなかったら新聞記者はやめるしかないな」と観念しました。
すーっと心が軽くなる
子供のころから本好きで、かなりの活字中毒者だったため、症状が出ている間は文字が読めないのが何よりつらかったです。仕事をやめたところで、何を楽しみに生きていけばいいのやら、、、
しかし、ふとある考えが浮かんだのです。
「そうだ!治らなかったら会社やめてのんびり旅行でもしよう!」
そう思った瞬間、なんだかすーっと心が軽くなったのを覚えています。
I can fly
ところが実際に休みに入ると、「これから1ケ月休みだ!」という開放感もあったのか、休んで2日目くらいにはウソのように症状が消えてしまいました(笑)。
やすむって大事
今考えると、長年の過労とストレスが重なって心身のバランスが崩れたのが原因だと思います。年齢的に体に変化が起こる(ホルモンバランスが崩れる)歳でもあったのでしょう。
3日も休むとちょっと気が引けてきたんで、上司に「治りましたので仕事出ます」と連絡したら、「バカっ!いい機会なんだから休め」と言われ、そのまま丸々ひと月休ませてもらいました。
思えば連続で7日以上の休みをとったのは入社以来初めてでした。
休んだおかげでその後はつつがなく仕事に復帰でき、東京に戻ってからは再び激務の日々が始まりました。
でも、後輩に任せられる仕事は回し、わりとセーブしながら仕事をするようにしたら、いろいろなことがうまくいったような気がします。
結論、記者の仕事は超ブラック。
さて、今の記者はどうなのか。
僕が早期退職してまもなく、電通の新入社員過労自殺事件が起きました。あれを境に、労基署の取り締まりが厳しくなったのか、マスコミ業界でもかなり「ちゃんと休みを取れ」という風潮が広がったようです。
電通新入社員過労自殺事件とは。2015年12月暮れに大手広告代理店電通の新入女性社員(24)が社員寮から飛び降り自殺し、過労自殺が認定された事件。時間外労働が「過労死ライン」の80時間を大きく超える130時間となり、うつ病を発症したのが原因とされています。電通は刑事責任まで問われ、東京簡易裁判所が「違法な長時間労働が常態化し、サービス残業が蔓延していた」と罰金50万円の支払いを命じ、罰金刑が確定しました。
でも、時々会う後輩の話だと、「休みを強要されて家で仕事しているだけ」らしいです。
社の方針で、Z世代の新人がすぐやめないようかなり甘やかしているらしく、中堅社員がどんどん割を食う形になっているとのこと。うつになって長期で休む人も続出しているとか。
就職氷河期でただでさえ同期が少なかった世代はほんと気の毒です。
いくら会社が社員の休日消化率を増やしたと言ったところで、人員が増えなきゃ根本的な解決にはならないんですよ、結局のところ。
在任中はこれが当たり前だと思っていましたが、やめてから客観的に見ると、
新聞記者の仕事は完全にブラック
でした。
まあ、部署にもよりますけどね。
さて、2回にわたって新聞記者の「黒い」ところばかり書いてしまいましたが、良くも悪くもそういう仕事です。きれいごとばかりではありません。
でも普通の人にはなかなかお目にかかれない人や景色に出会えて、それを多くの人に伝えられるという意味では、やりがいはものすごくあります。その気になれば、ペンの力で権力ともやりあえますしね。
誰にそんたくしとんねん
次回から投資の話に戻ります!
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