今日の投資の勉強は、米国投資の基礎知識として欠くことのできない「セクター分類」についてです。
このセクター分類を知らないまま、ただ漫然と好きな銘柄に投資している人が多く散見されます。
セクター分類には有名な2つの基準(GICSとICB)があり、いろいろなところで混同されています。2021年3月にICBの分類が全面刷新されましたので、これについても最も新しい分類方法とセクター名を載せています。
めんどくさいですが、ぜひこの機会にセクター分類とセクターETF(上場投資信託)をマスターしてみてください。きっと投資判断に役立つと思います。
また、S&P500のヒートマップ(以下の図)でおなじみ「finviz」を使ったセクター別の騰落率やセクターローテーションの見方も書いておきます。

Contents
セクター分類の基準は2種類ある
米国株式のセクター分類でまず頭に入れておかないといけないのが、2つの分類基準があるということ。
GICSとICBです。
両方とも大きく分けて11のセクターに分類されているので、だったら同じじゃないかと思うかもしれませんが、実は微妙に分類方法や表記が異なっているからややこしい。
それぞれみていきましょう。
GICS(Global Industry Classification Standard=世界産業分類基準)
最初にGICSです。これは格付け会社S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)と投資情報会社MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が1999年につくった産業分類です。
全体を大きく11のセクターに分類し、その下に24の産業グループ、69の産業、158の産業サブグループという大中小3つの階層を設定しています(図はMSCIのホームページより)。
主にSPDR(スパイダー)シリーズのETFで知られるステートストリート社などがこのGICSを採用しています。

11のセクター分類は以下の通りです(GICS分類順)。
- エネルギー(Energy)
- 素材(Materials)
- 資本財(Industrials)
- 一般消費財(Consumer Discretionary)
- 生活必需品(Consumer Staples)
- ヘルスケア(Health Care)
- 金融(Financials)
- 情報技術(Information Technology)
- 通信サービス(Communication Services)
- 公益事業(Utilities)
- 不動産(Real Estate)
この中でわかりにくいのは、消費関連の2つのセクターだと思います。これは以下のように覚えておくといいと思います。
- Consumer Discretionary(一般消費財)
景気の変動(Cyclical Change)により、消費者の裁量(Discretionary)で購入されるもの、またはその消費の場やストア。Cyclical な消費。
例)自動車、レストラン、レジャー、アパレルなど一般的な小売店等
- Consumer Staples(生活必需品)
景気のよしあしにかかわらず、日常的に購入される物やその店舗。Non-Cyclical な消費。
例)飲料、食料品の小売店、タバコなど
ICB(Industry Classification Benchmark=業種分類ベンチマーク)
続いてICBを解説します。ベンチマークとは「基準・指標」といった意味ですね。
こちらはFTSE Russell(フィッツィ・ラッセル)のブランドで事業を展開する金融サービス会社、FTSEインターナショナルが運用・管理をしている分類基準です。
主にヴァンガード社のがこの分類を採用していますね。
ICBも全部で11のセクター分類からなっています(ICBの分類順)。
2021年3月19日に刷新され、以下のような分類に変更されました。
- Energy(エネルギー)←旧Oil and Gas(石油・ガス)
- Basic Materials(素材)
- Industrials(資本財)
- Consumer Staples(生活必需品)←旧Consumer Goods(消費物?)
- Healthcare(ヘルスケア)
- Consumer Discretionary(一般消費財)←旧Consumer Services(消費サービス)
- Telecommunications(情報通信)
- Utilities(公益)
- Financials(金融)
- Technology (情報技術)
- Real Estate(不動産)←旧金融セクターから分離独立
分類名がGICSと微妙に違っていましたが、改良後はだいぶ似通ってきました。特に消費関連の分類が従来はかなり異なっていてわかりにくかったんですが、分類の仕方・分類名が同じになりました。
ちなみにICBの旧来の消費関連の分類は、
- Consumer Goods →「形ある物」を製造販売する会社
例)飲料や食料品、自動車など
- Consumer Services →「物」ではなくサービスを提供する会社
例)小売店、旅行・レジャーなど
という分類でした。古いままのこの分類の表記を見たら、「グッズ」か「サービス」の違いだと思ってください。
さらに細かな分類についてはここでは省略します。詳細を知りたい方は以下のページを参照してください。
- GICS→MSCIのホームページ
- ICB→FTSEラッセルの業種分類ベンチマーク(ICB)
GICSとICBで異なる「通信セクター」
2つの基準による消費関連の分類はICBが新しくなったおかげですっきりしました。
ただ、ほかにも微妙な違いが残っていますね。
覚えておきたいのは「通信関連」のセクターの違いです。
GICS
【Communication Services(通信サービス)】
通信サービス会社に加え、ネットを通したコミュニケーションツールや娯楽も含む
例)DIS(ディズニー)、NFLX(Netflix)、GOOGL(アルファベット)、FB(フェイスブック)など
ICB
【Telecommunications(情報通信)】
いわゆる狭義の「通信サービス」が対象
例)T(AT&T)、VZ(ベライゾン)など
まあ特にきっちり覚えておく必要はありませんが、なんで同じ通信関連なのにセクター名が違うんだろうと疑問に感じたときは、この違いを思い出してください。
このように、GICSとICBの2つの基準がありますが、大きく11の分類があることは同じなので、今回は細かいことは気にせずにこれをセクターETFにあてはめていくことにしましょう。
米国セクターはセクターETFで覚えると便利
今回は米国株投資で最も重要なインデックスである「S&P500」に焦点を合わせ、主にGICSのセクター分類を基に説明していくことにします。
米国セクターを覚える場合、代表的なセクターETFがありますので、その分類と英語表記、ティッカーシンボルをまるごと覚えちゃうと便利です。
分類は以下の通り。ETFは左がステートストリート社のSPDR(スパイダー)シリーズ、右がヴァンガード社のETFです。
S&P500のセクター別構成比の数字は「S&Pダウジョーンズインデックス 指数ハンドブック2020」より。

SPDRはS&P500の銘柄からなる「S&P セレクト・セクター指数」、ヴァンガードはもう少し広く米国市場全体から選ばれた銘柄からなる「MSCI US インベスタブル指数」をベンチマークとしており、構成銘柄や比率は両者で違います。
ただ、いずれも数十億ドルの資産がある超巨大ETFのため、異なる構成銘柄の売られすぎや買われすぎでそれぞれがまったく違う方向に動くことはありません。
つまり、セクターの動向を見る上では、どちらのETFの値動きを観察してもさしつかえないということです。
この構成比を円グラフにするとこうなります。

それぞれのETFの組み込み銘柄や構成比、パフォーマンスなど詳細が気になる方は、ヴァンガード、ステートストリートの各ホームページをご覧ください。
両者のETFとも本当に経費率が小さいため、セクターの動向を見るためだけでなく、定期積立や短期売買にも利用できます。
セクターETFをチャートで比較してみると、、、
それでは、全セクターETFの値動きを1つにまとめたチャートを見てみましょう。
下はステートストリート(SPDR)のセクターETFの2020年年初から12月までのチャートです。

細かいことは気にせず、まずはセクターによって値動きやパフォーマンスにこれだけの差が出ることを見ておいてください。まあ当たり前の話なんですが。
一番上のオレンジ線が情報技術(XLK)で年初来約30%の上昇。一番下の茶色線がエネルギー(XLE)で同30%下落。上下で60%もの開きが出ているんですね。
2020年3月のコロナショックによる暴落後、情報技術セクター(XLK)は夏頃まで調子良かったです。上から2つめのピンクの線は一般消費財(XLY)で、これはAmazonが構成比の大半を占めますから、巨大ハイテク企業が今年の回復相場を牽引した様子がうかがえます。
下の方の黄緑の線は金融(XLF)です。底を這うようなエネルギー(XLE)ともども、2020年は回復が遅れたまま、大きなマイナスで推移しました。
前者はコロナによる金融緩和や消費の落ち込み、後者は原油の大幅な需要減がセクター全体の回復を遅らせた原因です。出遅れていた分、11月以降のパフォーマンスがほかのセクターより高くなっています。
このように、期間をいろいろ変えてパフォーマンスを比較して見ると、セクター動向がよくわかるのではないでしょうか。個別銘柄のトレードをする際にも、このセクター別のトレンドを把握しておくことがとても大切です。
例えば、石油関連のエネルギー株はいつか戻るだろうと思って暴落時に仕込んだところで、結局11月まではたいしたパフォーマンスが望めませんでした。しかも買値以下に落ち込むこともあっただろうと想像できます。
まあ後からならどうとでも言えるわけですが、セクターの動向を定期的に観察していると、勢いのある・なし、買い時・売り時がある程度見えてくることも確かなのです。
では次に、そのセクター動向の確認方法を見ていくことにしましょう。
ヒートマップでセクターを見てみよう
S&P500の銘柄の騰落率を緑と赤の濃度で教えてくれる有名サイトがあります。それが冒頭で紹介したFinvizのヒートマップです。米国株投資をしている方なら、どこかでご覧になっているのではないでしょうか。

このヒートマップのセクターがどうなっているか見ていきましょう。
拡大してみると、大きく11セクターにブロック分けされているのがわかります。

右側半分の配置は2020年12月のTSLA(テスラ)のS&P500組み入れにより大きく変わりました。
Finvizではなぜか消費関連が
- 「CONSUMER CYCLICAL(一般消費財)」
- 「CONSUMER DEFENSIVE(生活必需品)」
に分類されています。
理由はよくわかりません。2つの基準がごっちゃになるのを避けたのでしょうか。
ただ、前者はGICSの「CONSUMER DISCRETIONARY」、後者は「CONSUMER STAPLES」と同義と思ってよさそうです。
CONSUMER CYCLICAL には、
- AMZN(Amazon)=INTERNET RETAIL(ネット小売)
- MCD(マクドナルド)やSBUX(スターバックス)=RESTAURANTS(外食)
- NKE(ナイキ)=FOOT WEARS(靴)
- 自動車のTSLA(テスラ)やGM(ゼネラルモータース)=AUTO MANUFUCTURES(自動車)
などが含まれています。
なんでこんなにバラバラの業種が同じセクターなんだと混乱するかもしれませんが、先述したように、「好景気なら買われ、不景気だと買われない、景気循環(CYCLICAL)に影響を受ける消費関連」がみんな入っているからですね。
一方のCONSUMER DEFENSIVE(生活必需品)には、
- WMT(ウォルマート)やCOST(コストコ)=DISCOUNT STORE(デゥスカウントストア)
- PG(プロクター・アンド・ギャンブル)=HOUSEHOLD & PERSONAL PRODUCTS(家庭用品)
- KO(コカ・コーラ)やPEP(ペプシコ)=BEVERAGES(飲料)
- PM(フィリップモリス)やMO(アルトリアグループ)=TABACCO(タバコ)
などの銘柄があります。景気が悪くてもある程度は買われる商品を売る銘柄群です。
ヒートマップは特定の銘柄のマス目にカーソルを置くと、その銘柄を含む同じグループの銘柄の騰落率も一緒にが出てきますので試してみてください。
たとえば以下はテクノロジーの中にある半導体(SEMICONDUCTORS)の銘柄のグループ一覧です。直近の値動きのチャートも出ますから、個別の材料による値動きなのか全体のセクター動向なのかがこれでわかります。

セクターごとの騰落率とローテーションの調べ方
Finvizのヒートマップはすぐれたツールと思いますが、銘柄ごとに高安まちまちなことも多く、いったいどのセクターが買われているのかわからないことが多々あります。
そんなときは、セクター別の騰落状況がわかる「グループ」のページがおすすめです。
これは上部のタブの「Groups(グループ)」をクリックすると開きます。

ここを開くと次のようなページが出てきます(出てこない場合はそのページの上にある「Bar Chart」のタブをクリック!)。


これを見れば、11セクターの各期間ごとの騰落率がよくわかります。
上から「1日」「1週間」「1ヶ月」「3ヶ月」「半年」「1年」「年初来」の順に騰落率が棒グラフ化されています。
例えば、「1YEAR」あるいは「YEAR TO DATE(年初来)」を見るとTechnology(情報技術)とConsumer Cyclical(一般消費財)が大きく伸びて市場を牽引していたのがわかります。
一方で、上の方の「1DAY」「1WEEK」を見ると、Utilities(公益事業)やBasic Materials(素材)が強く、「1MONTH」だとEnergy(エネルギー)が強かったのがわかります。
「1DAY」を毎日観察していると、けっこう連日で同じセクターが上がっていることもありますが、日替わりで上位セクターが変わることもあります。
これを「セクターローテーション」と言いますが、そんなコロコロとトレンドが変わる相場なら、あまり値動きに一喜一憂しなくても問題ないと判断できます。
逆にこれまで好調だったセクターが3日連続で下落したりすると、トレンド転換が起きたのかもしれない、と身構えることもできます。そういうときは落ち着くまで買い増しを控えるとか、さらに落ちるならいったん撤退するとかいうこともできるわけです。
セクターETFのヒートマップもある
このほかFinvizにはETF(Exchange Trade Funds)のヒートマップもあるので、主要なETFが頭に入っている人なら、そこから傾向を読み取ることも可能です。
通常のヒートマップの左上に選択項目があり、ここのExchange Trade Fundsをクリックすると、下のようなETFマップに切り替わります。

この左下のブロックに「US SECTOR(米国セクター)」があり、これを拡大したのが下図。

ここにSPDRのXLK・XLE・XLFやヴァンガードのVGT・VNQなどのセクターETFの騰落率が示されています。
ヒートマップの各銘柄の四角形の面積は時価総額(ETFの場合は純資産額)の大きさに比例させています。SPDRのETF(Xで始まるETF)が目立つのはヴァンガードのETFより純資産額が大きいものが多いせいですね。
これ以外にも、僕はトレーディングビューのチャートページのウォッチリストにセクターETFを入れ、個別のチャートも見ながら日々の騰落率を観察しています。

数字は左から価格(ドル)、騰落値幅(ドル)、騰落率(%)です。上昇すると青、下落すると赤に表示されるのはヒートマップと同じですね。日本のSBIや楽天のチャートは上がると赤なので不思議です。
トレーディングビューは有料版を使っていますが、無料版でも十分ウォッチは可能です。会員登録は必要です。
ちなみに先に出した比較チャートは「Investing.com」のチャートページで作った物です。たくさんのチャートを比較する場合はこちらをよく使います。

Trading View も Investing.com も非常に便利なサイトですが、人に教えられるほど使いこなしていないので、もう少し機能に熟達したらまた記事化したいと思います。
それはさておき、セクターやセクターETFを頭に入れておくだけでも投資の判断材料がたくさん増える気がしませんか?
米国株セクター投資のおすすめ本
短期間でのセクターローテーションとは別に、景気や金利環境の変化に応じてもセクターが変動していきます。
下の図は景気の好悪や金利の高低(インフレ・デフレ)に伴ってどのセクターが買われやすいかを示した図です。

人気Youtuberの「じっちゃま」こと広瀬隆雄氏の著書『Market Hack流 世界一わかりやすい米国式投資の技法』に出ている図にどなたかが色をつけて加工した画像ですね。
この相場の4局面の循環については浦上邦雄氏の名著『相場サイクルの見分け方』でも触れられています。
本の紹介と解説はこちらに。

要は相場には大きく4局面があり、金融相場、業績相場、逆金融相場、逆業績相場が循環することで買われるセクターも変わってくるということです。
どの局面になっても保有する株がいっぺんに沈んだりしないように、いまがどの局面なのか、セクター分散も併せて考えておくのがベストです。
米国株投資の入門書としては、米国株ブロガー・YouTuberとしても人気のもみあげ氏の著書『もみあげ流米国株投資講座』(ソーテック社)もおすすめです。
詳細は別の記事でまた書きたいと思いますが、セクター意識をきちんと踏まえた上で個別株や投信・ETF、テーマ株などが紹介されている点が類書にはない魅力です。初心者だけでなく広く米国株投資家にもおすすめしたいですね。
ちなみに日本の分類は33業種!
米国株のセクター分類について見てきましたが、最後に比較のために日本の分類も見ておきましょう。
東京証券取引所を運営する日本取引所グループ(JPX)は、全部で33業種に分類しています。米国のセクターのちょうど3倍ですね。
これは総務省が定める「日本標準産業分類」に基づきます。
GICSも11セクターの下位に24の産業グループを設けていますが、それよりもさらに多いんですね。
JPXはこれを業種別に指数化して騰落状況を逐次公表していますので(東証株価指数33業種)、これを常にウォッチしておくと局面とトレンドの関係が見えてくるかもしれません。
33分類と指数、前日比騰落率はこんな感じ。

四季報などで日本企業の銘柄コードを調べるとわかりますが、本来は違う業種の番号(1000番台、2000番台〜のような)のところに新しい銘柄が分類されてたりします。これは分類が細かすぎる弊害なんではないでしょうか。
3800社も上場する時代を想定していなかったんでしょうが、日本の産業分類にこだわらず、時代に即した新たな銘柄の分類方法が必要なんではないかと思います。米国のティッカーシンボルのような。
僕は日本株ではトレンドによる短期トレードをしてないため、いちいち業種別騰落は気にしていませんけど。
可能なら、日本と米国の分類と相場4局面を1つにまとめたグラフをいつかつくってみたいですね。
と言うことで、本日はここまで!
- 米国株のセクター分類にはGICSとICBの2つの基準が存在する
- ICBの分類が2020年3月に変更となった
- 両者とも11セクターだが、通信セクターなどに違いがある
- セクターETFを覚えておくとなにかと便利
- セクターの騰落やローテはFinvizを使うと把握しやすい
- 相場の4局面によって買われるセクターが違ってくる
- 日本株は33業種に分類されている(多すぎて弊害も)
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