2024年は「辰年(たつどし)」。子(ね)年から数えて十二支の5番目にあたります。
2022年の寅(とら)は「千里を走る」、2023年の卯(う)は「跳(は)ねる」と相場格言にはありますが、はたしてどうだったのか。
そして2024年の辰年はいかなる格言で、過去はどうだったか、実際にはどうなっていくのか、干支の相場格言の一覧を示しつつ、その信憑(しんぴょう)性も可能なかぎり検証していこうと思います。
また、投資家はどのような気持ちで相場と向き合うべきなのか、「●●ショック」などの暴落時、どんな心構えで臨むのが正解なのかなど、覚えておきたい相場格言も厳選して紹介しています。
暴落の歴史は繰り返します。そうでなくても投資に上げ下げの大きな変動はつきものです。そんなとき、先人たちが体験し、受け継いできた教訓が言葉となった格言をいろいろ知っておくと、きっとメンタル面で支えとなり、冷静な判断ができるようになるでしょう。
まあ実用には向かなくても、遊び心たっぷりのユーモラスな格言をいくつか覚えておくだけでも、投資の教養となりますしね。
目次
- 「辰巳(たつみ)天井」ーー干支(十二支)の格言集
- 干支の格言は実際当たっているのか
- 「天井3日、底100日」ーー暴落からのV字回復は実は珍しい
- 「あほうになってコメを買うべし」ーー暴落は絶好の投資チャンス!
- 「大暴落は相場を若返らせる妙薬」ーー持ち主が入れ替わる?
- 「銃声が鳴ったら買え」ーー戦争・災害・事件・事故にも買い方の作法がある
- 「株は心配の種をよじ登る」ーーびくびくしていると置いてきぼりを食う!
- 「政策に売りなし」ーーお上の方針に逆らうなかれ
- 「たわけになりてコメを売るべし」ーー加熱相場にゃ気をつけろ
- 「眠られぬ株は持つな」ーー損切りはお早めに
- 「タコの糸は出し切るな」ーー現金は常に残しておこう!
- 【まとめ】干支の格言から事件事故戦争暴落まで、相場格言は知恵の宝庫
「辰巳(たつみ)天井」ーー干支(十二支)の格言集
まずはみんな大好き、干支(十二支)にまつわる相場の格言から。
年初の株式相場展望の記事などには必ずと言っていいほど、「今年の干支と相場の関係」が枕詞のように書かれていますよね。
最初にも書きましたが、2024年の干支は辰で、相場格言は
辰巳(たつみ)天井
です。次年の巳年も一緒にくっつけた格言となっています。年初の新聞や雑誌記事などで目にした方も多いのではないでしょうか。
「千里を走る寅」「跳ねる卯」と(格言の上では)右肩上がりになった相場が、この辰年と次の巳年で天井をつける(最高値をつける)というわけですね。
ここでほかの干支の相場格言も見ておくことにしましょう。
辰巳(たつみ)天井、午(うま)尻下がり、未(ひつじ)辛抱、申酉(さるとり)騒ぐ、戌(いぬ)笑い、亥(い)固まる、子(ね)は繁盛、丑(うし)つまずき、寅(とら)千里を走り、卯(う)跳ねる
子年からではなく、なぜか辰年から始まっています。
意味としては、
- 辰(たつ)巳(み)の年に株価は天井(最高値)をつけやすく、
- 次の午(うま)年から尻下がりに落ちていって、未(ひつじ)年は辛抱の年。
- 申(さる)年酉(とり)年は相場の変動が大きくて騒がしく、
- 戌(いぬ)年は笑ってしまうほどいい相場に。
- でも続く亥(い)年は一服して変動は小幅にとどまり、
- 子(ね)で再び活気づくけど、丑(うし)で停滞(あるいは下落)し、
- 寅(とら)・卯(う)年は景気回復し、上昇しやすい。
という感じでしょうか。
干支の格言は実際当たっているのか
日本株に限定すると、実際に辰年は十二干の中で最も高いパフォーマンスを示しているようです。
下記は日経平均の干支別に見た騰落率を指数の算出を開始した1949年からたどったもの(四季報オンラインの記事より)。
辰年が大相場になり、巳年で天井をつけた後、「尻下がり」の午(うま)年で下落するという傾向から、これを逆手にとった格言があります。
戌亥(いぬい)で買って、辰巳(たつみ)で売れ
戌亥の借金、辰巳で返せ
株価・景気が上向き始める戌年に買っておく(またはお金を借りる)と、辰巳の年に株価(またはお金)が増えるから、天井をつけるころに売れば大儲けできるということですね。
辰巳~午の格言は実際の株価の傾向と合っているとして、そのほかはどうなんでしょう。
おそらくみんな、過去の値動きを元に後付けでつくられた格言だと思いますが、長期で見た実際の干支別の騰落率と比べてみると、合っている年と合っていない年が出てきます。
たとえば午(うま)と丑(うし)の停滞感は合っているけど、戌(いぬ)は笑うほど伸びないし、亥(い)年は固まってはいません。
ここ数年の格言はどうでしょう。2020年の子(ね)年の日米の株価指数の変化を振り返りながら見てみましょう(チャートは赤が日本株=TOPIX、白が米国株=S&P500の値動きを示しています)
- 2020年「繁盛」の子(ね)ーーコロナショックの大暴落があり、株価が30%下落した後V字回復(ウイルスは大繁盛でした)。
- 2021年「つまずき」の丑(うし)ーー金融緩和の恩恵で年間を通してほぼ右肩上がり(日本株は年の瀬に少しつまずいた?)。
- 2022年「千里を走る」の寅(とら)ーーインフレ対策で各国がモーレツに金融引き締めに走り、相場に逆風が吹きあれました(プーチンの悪事は千里を走った)
- 2023年「跳ねる」卯(う)ーーインフレが落ち着くと同時に利上げもストップ。24年の金利低下を織り込んで株価は大いに跳ねました。
こう比較してみると、やはり合っている年もあれば合っていない年もあって微妙です。そもそも新型コロナウイルス感染拡大とかロシアによるウクライナ侵攻、それに伴う世界的なインフレ傾向などはいずれもかなりイレギュラーなことなので、干支の格言にあてはめること自体に無理がありそうです。
でもそれ言っちゃうと、そもそも干支の格言ってなんなんだってことになってしまいますけどね。
経済学的には長短4つの景気循環の波があることが知られています。発見した経済学者に由来する名前とサイクルのサイズ(期間)は、
- チキンの波・・・サイクル40ヶ月
- ジュグラーの波・・・サイクル10年
- クズネッツの波・・・サイクル20年
- コンドラチェフの波・・・サイクル50年
ということなっています。
下図はこの4つの景気循環の波を長期で示したもの。
なんでこの4つの波の話をもちだしたかというと、これらの波は干支の12年というサイクルとは全然重ならないわけです。つまり経済学的な根拠はないということ。
まあ干支の格言は日本人の遊び心が生み出した相場を面白く見るためのしゃれのようなものと考えれば、そんなに目くじら立てて批判することもないとは思います。
ちなみに「格言」とは、ある種の教訓を簡潔に言い表したものなので、「干支の格言」は厳密には格言とも言い難いんですけどね。
日本の「節分天井、彼岸底」とか米国の「5月に売り逃げろ(Sell in May and go away)」といった季節のアノマリーのほうが、ある程度の信憑性があります。
参考文献はこちら。ジェフリー・ハーシュ著『アノマリー投資』
僕が尊敬するジェレミー・シーゲル教授は、名著『株式投資』の中で季節のアノマリーを真剣にデータ分析しています。
「天井3日、底100日」ーー暴落からのV字回復は実は珍しい
さて、干支の「相場格言」がだいたいわかったところで、ここからはもっと実用的な相場格言を見ていくことにしましょう。
まず気になるのは、株価の急落や10年に1度といわれる大暴落のとき、投資家はどうふるまうべきか。
一般的に、
天井3日、底100日
と言いますが、ふつう大暴落は株価が数日でまっさかさまに落ちる一方、回復までにけっこうな日数がかかります。長く停滞が続くということですね。
その点、V字回復したコロナショックは例外的な大暴落だったと言っていいでしょう。
思えば、世界の株式市場は1929年の世界恐慌から約100年の間に幾多の暴落に見舞われてきており、その都度、下落と復活を繰り返してきました。
下の表は2000年以降の「◯◯ショック」の下落率です(大和ネクスト証券の記事より→こちら)。株価は終値ベース。
米国のS&P500の長期チャートを見ると、暴落による下落率の大きさと上昇に転じるまでの長さが一目瞭然です。下図はマネックス証券がまとめた50年チャート(元記事はこちら)。
コロナショックは1日の下げ幅で過去最高を何度も記録して恐怖におののきましたが、ITバブル(ドットコムバブル)崩壊やリーマンショックの方が、下げ幅も大きく、回復までに有した期間も長かったんですね。
「あほうになってコメを買うべし」ーー暴落は絶好の投資チャンス!
暴落は大変怖いものですが、見方によっては千載一遇の投資チャンスでもあります。
中には資金を温存してひたすら待ち続け、暴落が来たら一気に投資するという「暴落投資家」もいますね。
相場格言で言えば、
ショック安は最大の買い場
というわけです。
日本のコメ相場から伝わってきた格言には、
野も山もみな一面に弱気なら、あほうになって米を買うべし
というのもあります。
「阿呆になって」「たわけになって」とは、「もうなんも考えんでいいから、ただひたすら買え!」って意味です。たしかに普通に考えると怖くて買えないので、思考停止でいいんですね。
余談ですが、人を罵(ののし)るとき、関東の人は「バカ」といい、関西の人は「アホ」と言いますよね。じゃあ「たわけ」ってどこの言葉?
その昔、『探偵ナイトスクープ』という番組で、この「バカ」と「アホ」の境界線を探すという企画がありました。初代局長が上岡龍太郎さんのときです。
大まじめに全国調査した結果、実は人をののしる日本語は「バカ」と「アホ」に東西ではっきりと分かれるわけではなく、実は京都を中心に同心円状にいろいろな言葉が分布していることを突き止めました(下図は全国アホ・バカ分布図)。
実はこれ、民俗学の祖である柳田国男(写真)が説いた「蝸牛考」(かぎゅうこう=文化や言葉はかたつむりのようにぐるぐる回って広がっている)という仮説を証明した、「神回」だったのです。
そこで出てきた、バカでもアホでもない「たわけ」「たわけもの」という方言。あの言葉には「ご先祖から受け継いだ大切な田畑を分けて売ってしまった者=愚か者」という由来があったんですね。
おそらく米どころの越後あたりで使われはじめた方言なんじゃないかと想像しますが、この「たわけ」がコメ相場の格言に引き継がれているのが面白いところです。
この「探偵ナイトスクープ」のアホバカ調査については番組プロデューサーが本にしているのでご興味あればぜひ。ノンフィクションの傑作です。
「大暴落は相場を若返らせる妙薬」ーー持ち主が入れ替わる?
投資の神様ウォーレン・バフェットさんも暴落は大好物と公言しています。
と言ったかどうかは知りませんが、、、。
割安な株を買う「バリュー投資家」であるバフェットさんには、業績がいいのに暴落した銘柄はみなお宝銘柄に見えているのでしょう。
そうそう、この「宝(たから)」という日本語も、元をただせば語源は「田から」なんですよ。知ってました?
暴落時には、売りが売りを呼んで株価下落が加速します。その株価急落を見てさらにパニックになった人がとにかく売ってしまえと手放すのが「狼狽売り」。
そして、最後まで売るのをがまんしていた人がとうとう損失に耐え切れずに売ってしまい、売り物が出尽くして大底をつけることを「セリングクライマックス」と呼びます。
大底となるや、この投げ売りを虎視眈々と狙っていた投資家、これまで高くて手が出せなかった若い投資家たちが嬉々として買い漁る。ここで「株主の入れ替わり」が起こります。
大暴落は相場を若返らせる妙薬である。
とはまさに言い得て妙。
ウォール街にもこんな格言があります。
大暴落の後、お金は正しい持ち主に戻る
After a sharp fall, money returns to its right owners.
バブルに踊らされず暴落をうまく回避して、お金を温存できた人、投資の好機をじっと待っていた人に、割安株式を通してお金は戻っていくってことです。
暴落はもちろんないほうがいいですが、これによって投資家の新陳代謝が起こるというプラスの側面もあるわけですね。
とはいえ、暴落したからってすぐに飛びつくと、さらに下げていく(あるいはまったく戻ってこない)みたいなこともあるので、資金管理は十分にしなくてはいけません。
ちなみに格言ではないですが、我らがバフェットさんにも資金管理に関する投資名言があります。
ルール1:決してお金を失わないこと。
ルール2:決してルール1を忘れないこと。
市場の養分にならないよう十分気をつけなきゃですね。
「銃声が鳴ったら買え」ーー戦争・災害・事件・事故にも買い方の作法がある
大暴落とはいかないまでも、相場全体あるいは個別の銘柄を急落させる突発的な出来事があります。
最も大きいのは戦争・紛争でしょう。地政学リスクはいつの時代にもなくならないものですが、産油国や資源輸出国、貿易大国など世界経済に影響を及ぼす国々に紛争が持ち上がると、リスク回避のため、国債や金などの安全資産に投資マネーが流れ、株式市場が急落することがあります。
こうしたとき、投資家がどうふるまうべきかを言い表したのが、
銃声が鳴ったら買え
という格言です。
もとは18世紀英国の銀行家、ネイサン・メイアー・ロスチャイルド(かの有名なロスチャイルド家の祖=肖像画)が言った、
Buy on the sound of cannons, sell on the sound of trumpets(大砲の音が聞こえたら買い、勝利のラッパの音で売れ)
という言葉が原典のようです。
どんな意味かというと、戦争になりそうなあやしい雲行きになると投資家は一斉に売り始め、株価が下がる。その間、空売りが積み上がっていきます。
そして、実際に戦争が始まる(大砲や銃声の音が鳴る)と同時に買い戻しが起こり、相場が上がっていく。で、戦争が終結する(勝利のラッパの音が鳴り響く)ころには上昇が終わるから、利確せよってことですね。
これは「究極の逆張り」とも言われるトレード手法です。
国同士の利害関係が複雑にからみあう現代にも有効なのかどうかは定かでないですが、短期の値動きとしてはそうした傾向もあるんだろうと思います。
実際、2022年2月にプーチン・ロシアによるウクライナ侵攻が伝わると株価は下げ始め、実際に侵攻が開始された2月24日に株価は底値をつけ、そこから上がっていきました(チャートは日足のダウ平均株価)。
2月24日の侵攻開始でいったん底を付け、終値ベースでは3月8日にもう一度大底をつけたため、短期的にはこの2つの日が「戦争」相場のダブルボトムになりました。
戦争以外の急落要因としては、天災による工場の操業停止や製品の不具合によるリコール、幹部による汚職や食品偽装、粉飾決算など企業ごとのさまざまな事故や事件があります。
この時、やはり個別銘柄の株価は急落しますが、投資家がこれをどう判断すべきかは次の格言が端的に表現しています。
事故は買い、事件は売り
「事故は買い」は、突発的な事故や災害は、一時的に業績に影響するかもしれないけど、やがて回復するのだから下がったなら買っておけ、という意味。まあこれはわかると思います。
一方、危険なのは「事件」の方です。社会的な事件となるような大問題を起こした場合、業績だけでなく、企業の存続自体が危うくなるため、売ったほうがいいということ。
事件として強烈に記憶に残っているのは、雪印乳業の「雪印集団食中毒事件」(2000年)、そして子会社である雪印食品による「雪印牛肉偽装事件」(2002年)。
くわしくはWikiか何かで調べてほしいのですが(リンク貼ってあります)、トップブランドとして知られる雪印グループはこれによって地に落ち、雪印食品は解散して廃業に、雪印乳業は市乳部門を分社化して事実上の解体に追い込まれました(その後、経営統合。現・雪印メグミルクに)。
下は雪印乳業(現雪印メグミルク)の25年間の株価チャート(月足)。1999年3月に7,000円近くあった株価は、相次ぐ社会事件により2003年1月に750円まで下落。実に90%近く暴落しました。
このほか、東芝の7年に及ぶ粉飾決算(2015年)、単身者用アパートのレオパレス21の施工不良問題(2018年発覚)なども記憶に新しいところ。いずれも株価が大暴落して、業績も悪化。いまだに問題を引きずっています。
「株は心配の種をよじ登る」ーーびくびくしていると置いてきぼりを食う!
コロナショックの暴落からちょっと回復したとき、多くの人は「また下げるかも」「もう下げるだろう」とビクビクおびえていたと思います。
でもそこで投資を控えた人は、上昇トレンドに乗り損ねてしまいました。
株価はこんなとき、買うのを躊躇(ちゅうちょ)する人をあざ笑うように、するすると上がっていきます。
ウォール街の証券マンたちの格言で、
株は心配の種をよじ登る
Stocks climb a wall of worry.
といのがありますね。株価は心配・警戒しているときに限って上昇し続けるもんだと。
暴落でかなり落ち込んだ分、上昇余地も大きくなります。それを言い表した格言が、
山高ければ谷深し、谷深ければ山高し
ですね。この山をのぼらずしてなんの投資家ぞ、というわけですね。
コメ相場にはこんなのもあります。
いつとても買い落城の弱峠(よわとうげ)、こわいところを買うが極意ぞ
買い方の投資家がみんな含み損になって損切りし、弱気になっているところでは買うのが怖いものだけど、そこをあえて買うのがもうける極意だぞ、って意味です。
コロナショック後に各国が大規模な景気対策を打つことで始まった金融相場もそんな感じでしたね。あそこで怖さに打ち勝って買い向かえた人が、後々大きな勝利を手にしたわけです。
たとえ乗り遅れてもいいから、上昇トレンドがしっかり見えてきたら、躊躇なく買い向かいたいところ。
米国の「トレンド」関連の格言を3連発であげておきましょう。
トレンドに逆らうな
Don’t Fight the trend.
トレンドに沿って投資せよ
Trade in the direction of the trend.
トレンドは友達だ
Trend is your friend.
相場がバブルなのか否か、二番底が来るのか来ないのかは考えても仕方がない。上がってる間はそれに逆らうことなくトレンドに乗った方がいいってことですね。
「政策に売りなし」ーーお上の方針に逆らうなかれ
上昇トレンドになるか下降トレンドになるかは、暴落や景気動向だけでなく、国の金融政策にも大きく左右されます。
コロナショック後、各国の中央銀行が大規模な金融緩和政策を打ち出したことで株価は大きな上昇トレンドを形成しました。
しかし景気が加熱ぎみになり、ロシアのウクライナ侵攻で原油や小麦などの資源が不足してインフレが加速してくると、中銀は今度は金融引き締めに回りました。
金融緩和とは中央銀行が政策金利(民間銀行への貸出利率)を引き下げたり、国債や株、不動産債券などを購入したりすることで、市中に出回るお金を増やし、景気浮揚を図ること。金融引き締めはその逆に、政策金利を上げたり、保有する国債や株などを売却したりして市中に出回るお金を減らし、インフレや景気過熱感を抑える政策のことです。
2022年がまさに各国中銀が金融引き締めに転じた年ですね。これにより、日本株は2021年秋ごろから先行して、米国株は2022年の年明けから、それぞれ下降トンレドに入っています。
欧米の中銀と異なり、日銀だけは緩和続行と言ってますが、実際はETF購入などの株価下支えをいつのまにかやめていて、量的引き締めを開始しています。
下は米S&P500(黄)と日経平均(赤)の5年チャートです。右はじの縦線が2022年初め。まんなかの大きく落ち込んでいるところが2020年2月のコロナショックです。
これら中央銀行の政策は企業業績の良し悪しと関係なく株価に影響するため、いい意味でも悪い意味でも、予測を裏切られたりします。
たとえ自分の信念に反しようと、理不尽だと憤慨しても、国の政策に逆らってはいけません。市場は中央銀行の一挙手一投足にえらく敏感に反応します。これを投資チャンスと考えたほうがいいのです。
たとえば、国が環境問題に配慮して太陽光や風力発電を増やしてくというエネルギー政策を発表したら、再生エネルギーやそれを補助する機械産業の銘柄が上昇したりします。
相場格言でいえば、
政策に売りなし
というやつですね。
これは国なり中央銀行が力を入れて進めようとしている政策やテーマは相場の主役になるという格言です。
米国にもこれと似たような格言があります。
Fedと戦うな
Don’t fight the Fed.
「Fed(連邦準備制度)=FRB(連邦準備制度理事会=米国の中央銀行)の金融政策」に逆らった投資をするなってことですね。
FRBも日銀も金融緩和政策によってこれでもかというくらい市中にお金を流し、直接間接に株価を下支えしました。そこに投資家が群がってさらに投資マネーが流入しました。
相場は何かをきっかけにいきな下落するかもしれないけど、政策とトレンドを味方につけて、蛮勇を振り絞ってビッグウェーブに乗っていくことが大事という教訓を得ましたね。
「たわけになりてコメを売るべし」ーー加熱相場にゃ気をつけろ
この章では、暴落とは反対のアゲアゲ相場における相場格言を見ていくことにしましょう。
実体経済と乖離(かいり)し、実力(成長性や稼ぐ力)に見合わない株高が続いている場合、たとえトレンドに乗っていても常に下落の危険性と隣り合わせだということを頭に入れておくべきです。
相場格言にも、みんなが強気のときは警戒せよという戒めの格言があります。
万人が万人までも強気なら、阿呆になって売りの種まけ
万人が万人ながら強気なら、たわけになりて米を売るべし
これも日本のコメ相場から出た格言ですね。
株式相場で言うなら、相場が超強気のときはそろそろ売却してポジションを落とせ、あるいはショート(空売り)を狙えという感じでしょうか。
「靴磨きの少年」というと、ピンとくる人もいるかもしません。
アメリカ35代大統領J・F・ケネディのお父さん、ジョセフ・P・ケネディ(ジョー)が世界恐慌になる前年、靴磨きの少年がやけに投資に精通しているのを見て、「こりゃ景気が悪くなるのも近いな」と考えて株から手を引き、暴落を免れたという逸話です。
猫も杓子も投資投資、一番お金のない靴磨きの少年までもが「だんな、投資やんなせえ、投資はもうかりまっせ」と言い始めたということは、もうこれ以上市場に参加する人がいないということ。
あとは何かをきっかけに投資マネーが抜けていくんだろうと、ジョーは判断したってわけです(この靴磨きの少年のエピソードはジョーの作り話という説もありますが)。
おっさん、株買いなよ!もうかるぜ!
まあバブルではなくとも、上昇がしばらく続いた株は、飽和状態に達するとひとりでに下落に転じます。いわゆる「調整」というやつです。
上がった相場は自らの重みで落ちる
とはウォール街の格言。
上昇するには相当なエネルギーが必要で、ある程度上がってしまうと今度は「利食い」が始まり、その売り圧力で株価は剥がれ落ちていきます。
そうなることを常に念頭に入れて投資はしないといけません。
「眠られぬ株は持つな」ーー損切りはお早めに
それでは、先人たちは「暴落」「急落」とそれに伴う「損失」をどうとらえ、どのように対処しているのでしょうか。関係する格言を挙げてみましょう。
まずは一番最初に挙げた「天井3日、底100日」に似た格言から。
上り100日、下げ10日
どちらの格言も上がっていくにはけっこう時間がかかり、一回てっぺんを付けて下がり始めたらあっという間に下落する、ということを示しています。「コツコツドカン」というやつです。
裏をかえせば、暴落が始まったらぐずぐずしてないでとっとと売った方がいいとも読めます。
売りは早かれ 買いは遅かれ
という格言もあります。買いは時間をかけてじっくり吟味してもいいけど、売るときは躊躇せず売れってことですね。
特に含み損になってしまった玉はさっさと小さいうちに損切りした方が精神衛生上よろしい。ウォール街には、
眠られぬ株は持つな
という相場格言があります。これ以上損失がふくらんだらどうしよう、考えたら夜も眠れないと悩むくらいなら、売ってしまえ!という意味です。
日本にも、
引かれ玉(ぎょく)は投げよ
という格言があります。玉は「たま」ではなく「ぎょく」と読みます。保有してる株式などのポジションのこと。引かれ玉とは含み損となったポジションのことです。
ねむられぬタマはなげよ
早めの損切りこそが勝つ道であり、損切りが遅れた者が負けるという格言もあります。
勝者は利を伸ばし、敗者は損を腐らせる
投資で失敗する者は、含み益が増えているポジションをすぐ利確してしまう一方、損切りはどんどん遅らせ、結局損失を拡大させてからやっと切る。
もう底につきそうなタイミングでみんなが一斉に切るから(=セリング・クライマックス)、切った翌日から上げ始めたなんて話、よく聞きますよね。
まあこれは短期的なトレードの話であって、長期投資の場合は30~50%の暴落はけっこう頻繁にあるとあきらめて、死んだふりしてガチホ(「がっちりホールド」の意)するのも手です。
業績がどこまで伸びるのか、この暴落がどう業績に影響するのか、仮に含み益の場合、利確して払う譲渡益税(利益の20%)や再購入するときの手数料も考慮に入れると、残した方がよかったというケースもあるからです。
ただ、長期トレードの場合でも、暴落時に早めにポジション切りしておくとその後の回復が早くなるよ、ということを別の記事で検証しています↓↓↓
「タコの糸は出し切るな」ーー現金は常に残しておこう!
さて、ふたたび暴落のシーズンがめぐってきて、ちょっと怖い上昇トレンドが始まったとして、あるいはかなり上げてからどうしても欲しくなったとして、具体的にはどう買っていくのがいいのでしょうか。
先人の知恵を一言でまとめるとこうなります。
「資金を何回かに分けながらちょっとずつ買い増しし、お金は全部使い切るな」
と。必要以上に弱気になる必要はないけれど、もうこれ以上下がらないと思ってどかどか入れてしまうのは危うい。
自信満々に大金をぶち込むと、すぐ急落がきたときにいきなり大きな損失を持つことになります。
それを戒めた格言があります。
大玉(おおぎょく)を張ることを誇りとするなかれ
僕の好きな格言はこれ。
相場のカネと凧(たこ)の糸は出し切るな
これはどちらかというと上げ局面の話かもしれません。常に糸に余裕を持たせておかないと、ぷつっと切れて凧はどこかに飛んでいってしまいます。
これと同じように、いついなんどき株価が急落しても対処できるように、フルポジ(資金をすべて投資対象につぎ込むこと。フルポジション)は避け、常に投資余力を残しておけ、ということですね。
コメ相場の格言にもこんなのがあります。
ふところに、金をたやさぬ覚悟せよ、金はコメ釣る餌(えば)と知るべし
これは江戸時代の堂島で成功を収めたコメ相場師、牛田権三郎翁の言葉。金という「餌」でコメを「釣る」とは、なんともユニークな表現ですよね。
適度にキャッシュは残しつつ、資金をある程度分割して投資していく。何かのタイミングで株価が急落したときに、安値を拾っていく。これを「押し目買い」といいますが、このようにこまめに買っていく方が大きなけがをせずにすみます。
安くなるたびにちょっとずつ買い増していければ、全体の平均購入単価が下がり、ドルコスト平均法の効果で上げたときの利幅も大きくなります。
ドルコスト平均法についてはこちらの記事をどうぞ↓↓↓
60年の歳月を費やしたという牛田翁の相場指南書『三猿金泉秘録』は、酒田罫線法で知られる『本間宗久翁秘録』とともに相場の二大聖典として知られています。
先述の「あほう(たわけ)となって買うべし、売るべし」の格言もこの指南書が出典です。
そんな牛田翁の買い指南の有名な言葉がこれ。
買米を一度に買うは無分別、二度に買うべし、二度に売るべし
安いと思っても1度に買うな、高くなったと思ってもいっぺんに売るな、ということ。分けて売買するだけでリスクがだいぶ緩和されるという戒めですね。
うまくやれるなら、買い下がるたびに購入枚数や額を増やしていくと、さらに効果が大きくなります。
コメ相場の格言にはこんなのもあります。
安値買い下がりの株数は、1、3、5の比率有効なるべし。そして資金の半分を温存すべし。
資金を二分割して、その半分をさらに9分割し、最初1割、次は3割、最後に5割と買い下げる。残りの半分の資金は使わずに残しておけ、ということです。
こういう買い増し方は「ナンピン(下げるごとに買い増していく方法)」でも有効なテクニックです。
ただし、成功した投資家たちは口をそろえて「ナンピンはやるな、含み損が増えるリスクが大きい」と教えています。
上記の本田宗久翁も、「負け惜しみのナンピンはするな」ということを言っています。
上がると思って買ったのに下がったのなら、とっとと損切りすべきであり、失敗を認めたくないがために意固地になって買い下げるのは愚の骨頂てことです。
安易なナンピンを戒める格言にこんなのがあります。
下手なナンピン、すかんぴん
「すかんぴん(素寒貧)」とは、貧乏で金がないこと、あるいは金がない人のこと。
買い下げていくのは、きちんとした計画の下、定期的に購入していく場合に限って有効なのかもしれません。買い下げて購入単価を下げていくのは同じでも、ドルコスト平均法をナンピンとは呼ばないですからね。
まあ、失敗しまくって万策尽き、本当にやばいと思ったら、思い出してほしいのはこれです。
三十六計逃げるに如(し)かず!
相場格言じゃなくて孫子の兵法ですけど。
【まとめ】干支の格言から事件事故戦争暴落まで、相場格言は知恵の宝庫
さて、干支・暴落・戦争の格言、いかがだったでしょうか。
コメ相場からウォール街まで、世の中には実にさまざまな相場格言があるもので、記事を書きながら「これも入れたい、あれも引用したい」と増えていきました。
江戸の昔から、そして洋の東西を問わず、人は相場でおなじようなことを経験し、悩み苦しんできているんだと、格言を通じて励まされます。
せっかくの先人たちの知恵を、われわれは生かしていかなくてはいけません。
今日の記事で主に参考にしたのはこれ。
西野武彦著『株で勝つ!相場格言400』(日経ビジネス人文庫)
日本の証券市場や米国ウォール街のトレーダーたち、世界最初の先物市場と言われる江戸時代のコメ先物取引の相場師たちが長年語り継ぎ、守ってきた投資の教えや名言を400も集め、解説した本です。
ネットでもいろいろ相場格言集はありますが、内容別に分類されているので読み物として通読するにはとてもいい本だと思います。
暴落に直面するとなかなか冷静に対処はできないものだけど、チャンスもいっぱいで、うまく立ち回れば大勝利をおさめることもできます。
あわてずさわがず、欲を出しすぎず、上げトレンドというビッグウェーブに乗っていこうではありませんか。
- 辰巳天井で売り抜けろ!
- 暴落は当たり前にやってくる
- 国の政策にさからうべからず
- 不安をよそに株価は上がる
- 暴落は市場の新陳代謝を高める
- 「たわけ」となって取引すべきときも
- 凧の糸とお金は出し切るなかれ
- 下手にナンピンするとすかんぴんになる!