今日のテーマは、最近よく耳にする「ステルス値上げ」のお話です。
見えないインフレ(物価上昇)ということで、ステルスインフレなどとも言いますね。
いったい「ステルス値上げ」とは何なのか。これがあなたの生活にどんな影響をもたらすのか。
その中身とメカニズムを専門家のインタビューも交えながら一緒に考えていきます。
前回の「72の法則」とあわせて読むと、より切実にあなたのお金に直結する問題だとわかってもらえると思います。

目次
毎朝の食事に異変発生!
新聞記者は体が資本。昼間の取材と執筆に、夜討ち朝駆け。部署によっては休日も吹っ飛びます。ストレスは増え、睡眠時間も減るばかり。
そこで、体力と健康を維持するために始めたのがジョギングと筋トレ、そして毎朝のヨーグルト習慣でした。もうかれこれ10年以上になります。
効果のほどはわかりませんが、長期的に見たら風邪をひきにくくなり、花粉症が軽くなった気がします。胃にも優しいですしね。

ヨーグルトは「スーパーケフィア」↓↓↓という種菌を買って自作していますが、忙しいときは市販のヨーグルトを買います。
よく買うのは定番の明治ブルガリアヨーグルト(プレーン)。これを有機素材のフルーツグラノーラにかけ、ささっと食べて「朝駆け」にでかける。これが僕の朝食でした。
これが一番自分に合うのか、ずっと続けてくることができました。
ところが、このブルガリアヨーグルトにある日、緊急事態が発生したのです。
2018年春のこと。それまでずっと450gだった中身が急に400gに減ってしまったのです。付属していたグラニュー糖?もいつの間にか消えていました。
砂糖はもともと不要だったからいいとして、量を減らされたのには参りました。急に1食分が少なくなったのですから。
ケフィアの方は毎回500g作っていて、一回の朝食で半分の250gを食べます。これと比べると、もともと50g少ないブルガリアはなんだか物足らなかったんですが、これがさらに400gに減ったのです。半分だと200gしかありません。
「だったら250g食べて翌日は新しいのを足せばいいじゃないか」と言われるかもしれませんが、それはなんとなく気持ち悪いのです(わかるよね?)。

思い起こせば「おいしい牛乳」でも
思い起こせば、ケフィアヨーグルトを作るのに同様の苦い経験がありました。
ケフィアの菌床としてずっと使っていた同じ明治の「おいしい牛乳」の内容量が1000ccから900ccにいきなり減ったのです。
にゃんと!

減量のいいわけはひどいもんで、「(スリムにすることで)お年寄りやお子さんに持ちやすくした」とかなんとか、そんなんだったと思います。
しかも、量が減る代わりにプラスチックの注ぎ口なんかがついて、環境にもよろしくない。僕の住んでいた地域は大丈夫でしたが、人によってはごみの分別もめちゃ面倒になったはずです。
それよりなにより、僕にとっては500cc×2回分のヨーグルトが作れないということになり、不便この上ない。
だいたい400とか900って数字、中途半端でとても気持ち悪くないですか?日本人にとっては「死」とか「苦」を連想する不吉な数字でもありますよね。

というわけで、そこからヨーグルトに合う最適な1000cc牛乳を求めて全国をさまよい歩く流浪の日々が始まりました。
北はセイコーマートから南はサンエーまで。西友、LIFE、ダイエー、マルエツ、サミット、、、。
いつでも探しているよ、どっかに牛乳の姿を。向かいのホーム、路地裏の窓、こんなところにいるはずもないのに〜♪
というのは冗談で、実際は近所のセブンイレブンで売っていた1000cc牛乳を場当たり的に買っていただけですけどね。
モーいーぜ、、、

この牛にピンときたら画像をクリック
ステルス値上げが生活を襲う
明治ひとりを悪者にしたくはないですが、この数年で2度にわたって毎日口にする商品の量を減らされた恨みは大きかったです(ちっさ!)。
どちらも値段はよく憶えていませんが、減量したとき、「ブルガリア」は10円値下げ、「おいしい」は据え置きだったようです。
でもこれ、減量分を考えたら実質値上げも同然なんですよね。
原材料や人件費の高騰でメーカーはどこも大変です。どこかで価格に転嫁しないと、利益が出なくなってしまいます。でも値上げには反発も大きく、ファンが離れていってしまう恐れがある。
そこでメーカーが考え出した結論が、ひとまず量を減らして値段が変わらないように見せかけることでした。家計の収入が上がらない中、消費者の心理的抵抗を少なくするにはそれしかなかったのです。
価格据え置きだけど実質値上げ。こういうのを「ステルス値上げ」と呼びます。
ステルスには「こっそりと」「隠密に」という意味があります。
消費者に気づかれにくい宣伝行為をステルスマーケティング(ステマ)、敵レーダーに見つかりにくい戦闘機をステルス戦闘機(写真)と言いますが、あのステルスです。

たまにしか買わない人は「こんなもんだったかな」と思うだけでしょう。よく買う人も仕方ないので慣れてしまう。で、いつのまにかこの量と価格が定着している。
価格の値上げが見えないだけに、やすやすと敵の術中にはまってしまうわけです。
ステルス値上げは「収縮するインフレ」
日本では「ステルス値上げ」ですが、海外では「シュリンクフレーション(shrinkflation)」という言葉が使われているようです。
内容量が「シュリンク(収縮)」する「インフレーション(物価上昇)」という造語で、景気停滞期の物価上昇を示す「スタグフレーション」と対比させる言葉として生み出されたようです。日本でも最近よく耳にするようになりました。
おいらはシュリンプ

2019年春に食品メーカーや飲食店が一斉に値上げをして話題になりましたが、その中にはこのステルス値上げもけっこうありました。
下は近年ステルス値上げした有名商品の一覧です。思いつくかぎり挙げてみましたが、知らなかったという人も多いのではないでしょうか。
- 明治おいしい牛乳
- 明治ブルガリアヨーグルト
- カントリーマアム
- ドロリッチ
- うまい棒
- 雪見だいふく
- ハーゲンダッツミニカップ
- キットカット
- 明治ミルクチョコレート
- ポッキー
- 亀田の柿の種
- カルビーポテトチップス
- ブルボン アルフォート
- セブンイレブンのお弁当
消費者もバカじゃないから、毎日食べている人などはこのステルス値上げに気づいたと思いますが、その後2019年10月には消費税が増税され、もううやむやになってしまいましたね。
「令和元年版消費者白書」(2020年6月)に、このステルス値上げに対する消費者意識についてのコラムがありました。
消費者庁の物価モニター調査によれば、「3年前と比較して実質値上げが増えたと感じる」と回答した人は82.2%に上り、「日常的に買っている商品について、実質値上げが原因で買う商品を変えた(または買うのをやめた)ことがある」と回答した人は24.8%となるなど、企業の実質値上げに対し、消費者が敏感に反応していることが分かります。(消費者白書コラム「実質値上げ(ステルス値上げ)に関する消費者の意識」より)

「実質値上げが増えたと実感している人」が8割を超えています。これは2018年の調査ですから、2019年春の相次ぐ値上げを加味したらおそらく9割以上に達しているのではないでしょうか。
もっと怖い品質劣化インフレが進行中
しかし、ことは量を減らすだけの問題にとどまりません。
「内容量の減少」よりもっと深刻なステルス値上げがあるそうなのです。
これについては、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)が発表した興味深い分析レポートがあります。「デフレより心配なステルス・インフレ」(2018年12月)
日銀のインフレ目標2%がなかなか実現できないでいるのと対照的に、総務省統計局の消費者アンケートでは「物価に対して感じる体感温度」はすでに5%近く上がっている。この乖離(かいり)はどこから生じるのか、それは何を示しているのか、を分析したレポートです。
「物価の体感温度が上がる」とは、実際に物価が上昇したかどうかではなく、あくまで「感覚的に上がったなあ」という感じです。
ちなみに、最新(2021年1月)の総務省調査「生活意識に関するアンケート調査」では、「1年前に比べ現在の物価はどうか」「何%程度変化したと思うか」に対する回答では、約6割超が「上がった」と感じ、平均値で5%前後上がっていると実感しているようです。

品質の劣化というステルス値上げ
さて前段が長くなりましたが、MURCのレポートの分析結果を僕なりにかみくだいてまとめると、次の2点に要約できます。
- 頻繁に買うものほど物価の体感温度に連動している。
- その体感温度の上昇が、内容量の減少だけでなく、「品質の劣化」として消費者に感じられている可能性がある。
にゃにゃにゃんと!

原材料費を抑えて質を劣化させる。これも立派なステルス値上げの1つです。
ちょっと複雑な分析ですが、メーカーが調達する原材料費(日銀の製造業投入物価指数)が上昇すると、少し遅れて消費者の「体感指数と物価指数(頻繁に買うもの)の乖離」が大きくなる傾向がある(下図)。

まあ簡単に言うと、メーカーが「原材料費、高っ!」と感じたら、ちょっと遅れて消費者が実際の価格と比べて「商品、高っ!」と感じるってことです。
政府の物価調査に抜け穴?!
量が減ったものは内容量の表記さえあれば単価の上昇が割り出せるため、政府(総務省統計局)はこれを加味した物価指数の調整ができます。
しかしこれだけ消費者の体感指数と物価指数に乖離があるのは、政府も加味できないステルス値上げが目立ってきているからではないか、と分析レポートは語っているわけです。
「えっ、政府の物価調査に見落としがあるってこと?」って疑問に思いますよねえ。
そこで調査レポートをまとめたMURC研究主幹の鈴木明彦さんにお話をうかがいました。

原材料の良しあしや、もともと内容量の記載がない商品の中身まではさすがに政府も日銀も調査できません。
だから実際の物価上昇と消費者が感じている価格感とのズレが開いてしまうというわけですね。
世間の賃金が上がらない中、商品価格だけを上げれば売上げが落ちる。だから、企業は価格を上げずに分量を減らす。それでも材料高をカバーできないとなると、今度は質を落とし始める。
でも品質の低下は企業の技術力を下げ、ひいては海外製品との競争力も低下させます。物はますます売れなくなり、社員の給料も上がらない。
こうした負のスパイラルが日本では進行しているわけです。
鈴木さんもこうおっしゃっています。
*鈴木さんのインタビューはご本人の許可を得て掲載しております。鈴木さん、ありがとうございましたm(__)m
あなたの預金はすでに減っている
前回の記事で、「インフレは必ずやってきて貨幣価値が下落する。だから預金は減っていく」と書きました。

ちょっとおどしすぎたかも、と反省しましたが、やはりおどしておきます(笑)。
物価が上昇しない表面的なデフレの陰で、見えないインフレが確実に進行している。見えないうちに現金の価値はどんどん下がっていっている。
つまりあなたのお金は何もしなくてもどんどん目減りしているんです!

年金不足、賃金低下、そして見えないインフレの三重苦。これを上回る利回りで一刻も早く投資をしていくことが肝心です。
- お値段そのままでも内容量だけ減っている実質値上げ(ステルス値上げ)が進行中。
- 欧米ではシュリンクフレーションという。
- 量減らしより深刻な品質劣化のステルス値上げも増えている。
- 消費者物価指数より物価体感温度が高くなっている。
- 見えないうちに貨幣の価値は下がっている=実質的に預金は目減りしている。